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2007 05,21 07:52 |
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「失われた町」 三崎亜紀著 集英社
30年に一度、町の意思によって、ある日突然一つの町が消滅する。建造物は残し、町に住む人々だけが忽然と姿を消す。 私たちの住む世界と似ているようで、どこか違う架空の世界が舞台の小説。 プロローグは、今まさに消滅を迎えようとしている町と対峙する人々の姿から始まります。町の消滅に関わる7つのエピソードを経て、迎えるエピローグ。 久しぶりに、小説の醍醐味を味わえた良作。独特の世界を表現する言の葉、リズム、各エピソードとプロローグ・エピローグが全て無駄なく配列された構成。そして、高まる感情と読後残すもの…。新しい世界を余すことなく堪能できました。 テーマは「喪失」です。抗うことのできない絶対的なもの=町の消滅という現象を通して、人々は恐怖や無知から生まれる差別、蔑み、拒否を繰り返します。そこに救済や救いはなく、受け入れるものとして対処するだけです。世間では「穢れ」として扱われる、消滅という現象に積極的に関わる登場人物たちも、自らの意思によって淡々と現況を受け入れ、望みをつなげていく生き方を選択しています。ここは、国家による絶対的な管理下におかれた世界。徹底的な情報管理社会にも関わらず、決して侵入できない個人のスペースが存在するということ。芸術の力が町の消滅への対抗手段として重要な要素を占めているために、わざわざ難解な方法で感覚機能を表現している箇所が多く、細かい設定を理論的に追求したり考え込むよりかは、違和感に抗わず、感覚の波に乗るように読んだら楽でした。 死や別れという実体験で起こりうる喪失を受け入れるまでも、かなりの時間が必要であるのに、(または受け入れられないかもしれないのに)「町の消滅」によって親しい人を突然喪い、その人に関する情報も全て没収され、悲しみも記憶も語ることができないという社会…。今、新しい命を生み出そうとしている体だからこそ、家族や愛する人を喪失し生きていくという感覚が妙に強く迫ってきました。人が皆違うように、喪失の受け止め方も、生きる選択も他人には判断できないはずなのに、人は自分の物差しで審判を下したがります。目の前のものをあるがままに受け入れる、ということの難しさ。本を読んでいない時間も、喪失の悲しみや恐怖といった冷たい感触に常に蝕まれているようでした。 初めて読んだ作家ですが、他の作品も興味が湧きました。 PR |
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