館長の部屋
月光図書館館長の雑記です。読んだ本のこと、日々のことなどを綴っています。
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2007
05,22
08:35
チェロとドンキホーテ
CATEGORY[音楽]
ロシアの世界的なチェロ奏者で指揮者のムスチスラフ・ロストロポービッチ氏が先日亡くなられたそうです。享年80歳。
日本でも現在彼のドキュメンタリー映画が公開されており、大都市のみの上映のため、さすがに田舎の妊婦では行くことも叶わず、DVDを楽しみに待っていた矢先のニュースでした。
実は、ロストロポービッチ氏の演奏は、以前よりすすめられていたにも関わらず、まだ聴いていなかったので、彼の追悼番組を見たことで初めてふれました。
「追悼ロストロポービッチ75歳最後のドンキホーテ」
NHK教育TV 5月13日放映
番組の前半は、ロストロポービッチが自身最後となるシュトラウス作曲「ドンキホーテ」の演奏を、小澤征爾指揮サイトウキネンオーケストラと行った際のリハーサル風景を映したドキュメンタリー。後半は実際の演奏と彼の親友が撮ったドンキホーテの映像詩を組み合わせたものでした。
世界中で聖書の次に読まれているという物語、ドンキホーテ。主人公ドンキホーテは、自分こそが騎士の中の騎士であると思い込み、従者サンチョパンサを従えて遍歴の旅に出、空想の美女ドゥルシネアを追い求めるというストーリーです。ドキュメンタリー部分では、一つ一つの楽章がいかにドンキホーテの心情に迫っているかをロストロポービッチが語り、親友小澤征爾とオーケストラにこと細かく説明をして、一つの演奏を作り上げる過程が丹念に描かれます。
さして興味がなかったこの物語。ストーリーを知っても、主人公の夢想家ぶりに呆れる程度の感情でした。それが覆ったのが、後半の映像詩の部分。どんな境遇でも音楽への夢を捨てなかったロストロポービッチが、ドンキホーテに自分を重ねて生きてきたという意味が、自然と入り込んできました。どんなに馬鹿にされても、現実と理想が違うということを目の当たりにしても、最後まで、ドンキホーテは自分の人生を受け入れて生きているということが、豊かな演奏と映像にゆだねられて伝わってきました。最後にドンキホーテが息をひきとるシーン。美しい旅の追憶と最後の呼吸。チェロの唸る声と、去っていく魂…。まさに、演奏家が全ての瞬間に全力をかけて表現しているという姿に圧倒されました。
少しずつ、彼の他の演奏も聴いていこうと思います。
心より、ご冥福をお祈りいたします。
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