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2007 05,04 08:57 |
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二日の晩は、美しく、力強い満月が見られました。心なしか、冬までの冴え冴えとした光ではなく、温かみのある色を感じました。
「グロテスク」 桐野夏生著 読み応えのある作品と聞き、「魂萌え!」に続き読みました。 昼は一流企業の総合職、夜は売春という二重生活の女性が殺されるという実態が話題を呼んだOL殺人事件。無差別テロ事件を起こしたとある新興宗教団体。幼稚園から大学まで─お受験戦争の象徴のような、エスカレーター式の某有名エリート校。 小説は、上記3つの実在する事件や組織を土台において、ハーフの姉妹とそれを取り巻く人間の、憎悪にまみれた一生を描く物語です。 何より精神の安定が必要なこの時期に、こーんなグロテスクな内容を読んでいいものか?と何度も中断しかけた本です。一言で表すなら、「悪意」が支配する本。「ありとあらゆる差別を描きたかった」という著者の主旨のとおり、最初から最後まで、全てのページにぎっしりと、日本社会に蔓延する差別に伴う負の感情がつめこまれています。 スイス人の父と日本人の母の間に生まれた二人の姉妹。絶世の美少女である妹と、平凡な容姿の姉。物語は、中年のフリーターとして地味な生活を送る姉の独白で始まります。家族を支配しようとする父と、父の言いなりとなる弱い母を軽蔑し、妹に対しては容姿のコンプレックスから徹底的に憎む姉。やがて姉は受験を勝ち抜き、スイスへ移住する家族と離れ、日本に残ってエリート高校へ入学。そこで、小等部から通う裕福な「内部生」と、中学、あるいは高校から入学してきた「外部生」との圧倒的な差別社会の洗礼を浴びます。 姉の独白以外に、三人の人物がそれぞれ残した手記(一つは申告文)が登場します。モデルからホステス、娼婦という人生を歩み、最後は客に殺される美貌の妹ユリコの日記。姉と高校時代の同級生で、エリートOLでありながら夜は売春のバイトをしてユリコと同じ犯人に殺されたとみられる和恵の日記。そして、二人を殺害した容疑者である中国人チャンの上申書。この三つの手記が挿入されることによって、それぞれの登場人物が食い違った供述をしていることが明らかになり、読者は何が真実なのか混乱させられていきます。まさに、「真実は藪の中」です。 恐らく、著者が最も渾身の力を込めて書いた部分…多くの読者に衝撃を与える箇所が、最後に登場する和恵の手記「肉体地蔵」でしょう。 何故、彼女は二重生活を送ったのか。どんなに安い金でも、どんな場所でも、どんな行為でも求められれば体を売った和恵。学園生活でも、社会でも、ひたすら壊れていく彼女は叫び続ける。 勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、一番になりたい。 いい女だ、あの女と知り合ってよかった、と言われたい。 幼少から繰り返される容姿の評価。それは学力を含む能力全てを覆す「女としてのランクづけ」。ありとあらゆる差別の現実は、家庭から学校生活、社会にでてからも継続しています。その出口のないランクづけにさらされたことのある人ならば、和恵の狂っていく様は、デフォルメでもなく、真摯な叫びとして響くでしょう。家柄がよく、高学歴で一流企業に勤め、容姿端麗でもてはやされ、仕事もできる女。誰もが求めてくれる女…。加えるならば、結婚して子どもを産んでも若くて美しく、家庭も仕事も充実している女という目標もあるかもしれない。日本にあふれる情報は、過酷な競争社会を扇動し続けています。 もし、登場人物に受容という経験があったなら、この物語も全く違った内容となっているでしょう。ここには、自分の弱さを守るために、全てを敵と思い、攻撃し続ける意志しかないのですから。 OL殺人事件の詳細や、外国人労働者の実態についてもよく取材されて書き込まれています。読む際には、気力体力が十分なときにおすすめします。 PR |
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