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2008 05,22 22:44 |
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「ヴォイス 西のはての年代記Ⅱ」 ル=グウィン作 河出書房新社
「ゲド戦記」の作者による新作ファンタジーシリーズの第二巻。前巻「ギフト」は北方の高地が舞台でしたが、今回は南に下り、海沿いの都市国家が舞台です。20年以上の月日が流れ、第一巻の主人公も大人となって登場し、本作でも重要な役割を果たしています。 交易で盛える学術都市が、ある日突然、異民族に侵略されます。文字を持たない文化を持ち、自分達の崇める火の神を絶対神とする侵略者たちは、都市にある書物全てを消し去り、多神教の都市文化を蔑み、殺戮と暴力の限りを尽くします。主人公の少女もまた、母親が侵略兵に暴行されて生まれた「侵略の落とし子」です。異民族の圧制に怯えながら、破壊された都市に住む少女の日常が細やかに描かれています。 旧都市国家の統治者である道の長の館に住む主人公は、拷問によって重症となった長を助け、侵略者への復讐を心に誓って生きています。本と文字を完全に失ってしまっていた世界で、少女は書物の隠された秘密の部屋を手に入れます。やがて、長から失われていた文字と書物を受け継ぎ、その大きな責任のもと、激動する政治のうねりに踏み出すこととなります。 なぜ、ヴォイスなのか。それは是非読んでいただきたい。美しいクライマックスシーンがあり、その情景が文字の間から燦然と輝いています。主人公の抱えるもの、心情の変化がまた秀逸。失われていた文字を吸収していく過程は、言葉を愛する者の叫びを代弁してくれています。本の扉を開けたら、ル=グウィンの言葉の魔法が、深く深く呼びかけてきて、どこまでも囚われるような時間でした。毎度のことながら、なんと、豊かな物語を創り出すのでしょう。この第二巻を読んで、わかりにくかった第一巻の「ギフト」の意味が幾層にも膨らみ、また読みたくなりました。 現実世界の戦争に照らし合わせ、人の営み─文化や政治について深く考えさせられます。戦争の残虐さと、人の理不尽さと、再生の道しるべ。表の政治を男性が仕切りつつも、裏には必ず女性の働きが支えとなっていることや、日々の家事労働の煩雑さや食の営みに重点が置かれて描かれているところもまた、彼女らしいです。多神教への深い造詣からも、アジアの国々や日本の文化への眼差しを感じました。久しぶりに夢中になって読みました。早く次巻が読みたいです。 PR |
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